『子育て幽霊』 小泉八雲が書き残した日本の昔話 ~ ドラマ『日本の面影』より②
(2018.2.16)
女なら、死んでも子育てですよ!
ラフカディオ・ハーンの『日本の面影』で紹介されている、子育て幽霊と同じく、母性に支えられた魂のお話。(新編『日本の面影Ⅱ』角川ソフィア文庫から。詳しくは右画像クリック)
母性の絶対性が如何に日本人の心を形作り、長年にわたってそういう土壌の中で日本人の魂が育まれ、日本の文学作品等にまで深い影響を与え続け受け継がれてきたか。これらが消滅することこそ、日本人が真に滅亡してしまう時。
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その昔、何というお大名の時代か忘れましたが、この古い都に、深く愛しあう若い男女がおりました。二人の名前は定かではありませんが、話だけは今も残っています。
二人は幼少より夫婦(めおと)の契りを交わしており、家も近くでしたので、子供の時から一緒に遊んでおりました。やがて大きくなるにつれ、たがいに心惹かれあう仲になりました。
男は元服前に両親を亡くしてしまいました。ところが、身内の友人に当る、裕福な武士の家に奉公させてもらうことができました。男は礼儀正しく、賢くて武芸の才もありましたので、じきに主君から、何かと目をかけてもらえるようになりました。そのため、男は一刻も早く、許嫁(いいなずけ)と一緒になれるような身分になりたいと願っておりました。
しかし、東北地方で戦が起こり、急に主君について戦地へ赴くよう命じられました。それでも男は出征前に、なんとか許嫁の娘と会うことができ、女の両親の前で誓いの言葉を交わしました。そして、もしも生きていたなら、一年以内に戻ってきて、祝言(しゅうげん)をあげようと約束しました。
男が発ってしまうと、当時は今のような郵便もありませんでしたから、何の便りもないまま、かなりの月日が流れました。女は、戦のなりゆきをたいそう心配し、日に日に顔の色つやが失せ、やせ衰えていきました。そのうちに、現地から大名の元へ知らせを届けにきた者から、ようやく男のことを聞きだしました。そしてもう一度、別の使者により女に便りが届けられました。
しかしその後は、何の音沙汰もありません。待つ身にとって、一年とは長いものです。ついにその年が過ぎても、男は帰ってきませんでした。
そののちも、季節はいくつか流れていきましたが、男はいっこうに戻ってきませんでした。女は、男が討死(うちじに)したのではないかと思い煩ううちに病に伏し、ついに息を引きとって埋葬されてしまいました。年老いた両親には、ほかに子供がいませんでしたから、いうにいわれぬ悲しみにうちひしがれ、寂しさからわが家にいることさえ厭(いと)うようになりました。
やがて、両親は自分の財産をすべて処分し、千箇寺(せんがじ)参りという、長い年月をかけて日蓮宗の寺を千軒まわる巡礼の旅に出ることに決めました。そこで、先祖の位牌や人手に渡すことのできない仏具の類いの外は、小さな家を家財もろとも売り払ってしまいました。亡き娘の位牌は、故郷を離れる人の慣習にならい、檀那寺に納めました。この家の宗派は日蓮宗で檀那寺は妙高寺でした。
二人がその地を離れて四日しかたたないうちに、娘の許嫁だった若者が町に帰ってきました。男は約束を果たそうと主人の許しを得て、戦地を離れたのですが、帰りの道中も戦が絶えず、道という道を敵の軍勢に見張られ、かずかずの難儀のために大幅に到着が遅れてしまったのです。男は帰りつくと女の死を聞き、悲しみのあまり病の床に伏してしまいました。そして、何日も生死の境をさまよっておりました。
なんとか男は元気をとりもどしましたものの、痛ましい記憶がまた甦り、なぜ自分も死んでしまわなかったのかと悔やまれました。ならばいっそのこと、許嫁の墓前で自害しようと決意しました。
妙高寺の墓地は、人気のない寂しい場所でした。男は女の墓を見つけるとひざまずき、涙をこぼしながら手を合わせました。そして、これから腹を切るつもりだと許嫁につぶやきました。
すると突如、女の声が聞こえました。「あなた!」。自分の手に女の手が触れるのを感じました。振り返ってみると、女がそばでひざまずき、ほほ笑んでいるのです。ほんの少し青ざめた顔つきをしていましたが、昔と変わらぬ美しさです。驚きで半信半疑でしたが、うれしさがこみあげてきて、男の胸は高鳴りました。しかし、言葉になりませんでした。女はいいました。
「お疑いにならないでください。たしかにわたくしでございます。わたくしは死んではおりません。すべて手違いだったのです。家族の者は、わたくしが息絶えたと思い、早まって埋葬してしまいました。両親もわたくしが死んだものと思いこみ、巡礼の旅に出てしまったのです。
でも、ご覧のとおり、わたくしは死んでおりません。わたくしは、幽霊ではありません。ここにいるのは、わたくしです。お疑いにならないでくださいまし。あなたのご本心がわかり、これまでお待ちして、心を痛めていたかいがございました。
……でも、すぐよその町へまいりましょう。みんな、わたくしが死んだものと信じておりますゆえ、世間の人に知られると何かと煩わしいでしょうから」
二人は、だれにも気づかれることなく、町をあとにしました。それから甲斐の国、身延(みのぶ)村へ向かいました。そこには日蓮宗の有名な寺があります。女は道中こう話しました。
「父も母も、巡礼の途中できっと身延村を訪れることでしょう。だからそこに住めば、両親と出会い、またみなで一緒に暮らすことができるかもしれません」
二人が身延村に着くと、女はいいました。「小さなお店でも開きましょう」。
やがて二人は、お寺へ続く参道沿いに、小ぢんまりとした食べもの屋を出しました。子供の駄菓子やおもちゃ、参詣者への食べものなどを売って生計を立てることにしました。こうして二年もたつと、商売も繁盛し、二人は男の子をもうけました。
さて、子供が一歳二カ月になった頃、女の両親が遍路の旅で身延村にやってきました。何かお腹の足しにと、その店に立ち寄ってみると、そこにはかつて娘の許嫁だった男の姿がありました。娘の両親は思わず声をあげると、涙を流して男にいろいろとたずねました。男は両親を店のなかへと招きいれ、あいさつを交わすと、次のように二人に向かっていいました。
「じつを申しますと、娘さんは死んではおりません。今はわたしの女房となり、息子も一人おります。家内はちょうど奥の部屋で、子供の添い寝をしております。どうぞ、すぐにでもいって喜ばせてやってください。家内は、ずっとお二人との再会を心待ちにしておりました」
そこで、男がもてなしの支度にせわしくしているあいだに、両親は奥の部屋へ向かい、母親の方からそっと部屋の中へと入りました。子供はすやすやと眠っていました。ところが、母親の姿が見当たりません。少し前まではそこにいたらしく、母親の枕には温もりが残っていました。
両親はしばらくそこで待ってから、あたりを探してみましたが、娘の姿はどこにも見当たりません。
ようやく、両親は、母親と子供が掛けていた布団の下に、何年も前に妙高寺に預けてきた、見覚えのある亡き娘の小さな位牌を見つけ、万事を悟ったのでした。—–
金十郎が語り終わった時、おそらく私がもの思いに沈んでいるように思えたらしい。金十郎が私にこう尋ねた。
「先生、こんな話、ずいぶんと馬鹿らしくお思いになったことでしょうね」
「いや、そんなことはないよ、金十郎。今の話はとても心に残る話だったよ」
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皆さんに、この話をハーンにした金十郎と同じ質問。
「バカバカしい話とお思いでしょうか?」
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(2011.4.17) (始めから)
続いて今日は、古き良き日本を愛したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の怪談からのお話。
日本語の読めないハーンは、妻のセツからの読み聞かせが、物語を書く上で最大の頼りになっていました。そして妻のセツは英語ができません。
セツは当時の日本に伝わるたくさんの昔話を調べ上げ、ハーンに読み聞かせしてあげてたようです。まるで、アラビアンナイト(千夜一夜物語)を彷彿させるようなエピソードですよね。きっとセツは、ハーンにとって最高の妻であり、最高のアシスタントでもあったのだと思います。
子供をパッパラパーに育てる左翼系の絵本に比して、日本の昔話とは何と魂に痛切に響いてくることか。
日本の昔話には、母性や父性に訴えるものがとても多く、これほど人の魂を揺さぶり、子供たちの豊かな感性を育める物語をたくさん持つ民族は、世界でも日本だけでしょう。
それが今の子供たちの周りでは、「みんな友だち、みんな仲良く」といった左翼的な話の絵本、児童書だらけになってしまってます。
今の日本に、子供たちの心へ突き刺さってくるような日本の昔話を好んで聞かせる親御さんたち、いったいどれだけいるでしょうね。
今日のお話だって、恐らくきっと知らない方の方が多いのではないかという気もします。若い世代だと尚更。 (続く)
飴屋さんに毎日、一人の女が夜になると飴を買いに来ます。
それを不思議に思い、後をつけていった飴屋の店主。
ついていった先はお墓で、どこからか赤ん坊の声が・・・
(【子育て幽霊】詳しくは右画像クリック)
『 こそだてゆうれい 』 ドラマ 『日本の面影』(1984)より
出演:ジョージ・チャキリス、壇ふみ
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(2011.12.5)
私はこの『子育て幽霊』が大好きです!
このサイトを嫌いで、女の自由だの権利だのが大好きなフェミ的な方でも、子供への愛情・母性にだけは肯定的で、まだ性根が腐りきっていないなら、このお話はきっとイケることでしょう。
子育てへの女の執念の表れである、こういう話から入ってでも、少しでも本来の日本女性らしさ、本当の女の強さというものが何であるのか、思い出していってほしいものです。
でもフェミ・左翼は、こういう話まで男を悪者に仕立て上げ、“子育て幽霊”は男に捨てられて死んだ女がモデルだったみたいに、必ず改変して利用しようとするんですよね。私があっち側なら、きっとそんなシナリオに書き換えます(笑)
今、『家政婦のミタ!』(主演;松嶋菜々子)とかいうドラマが話題になってるみたいですが、それも登場人物プロットを見ただけで、妻が自殺してしまった一家の家庭崩壊が描かれ、父親を許せないという娘・子供たちがいるという異常なシチュエーション設定だし、そんなの見ただけで「あ~、やっぱり・・・」と思ってしまいます。そういうのだけで、皆さんにも即座にイデオロギーを感じ取れるようなっていただきたいものですね。このドラマが流行ってるとか、やけに視聴率が高いとか騒がれてますが、どうせ捏造ですから、そんなの真に受けちゃいけませんよ!
真の女の強さというのは、男と仕事で張り合ったり、男とやりまくったり、男と女は対等だのと騒いだり、DVやセクハラされただのと男をケチョンケチョンにコケにして、男が仕事でクビにされるようバカ騒ぎしたりすることなんかでは決してありませんからね ^▽^)
“DV”だの“セクハラ”だの、そんなダサイ言葉使って男を貶めてること自体、既に洗脳されきってるんだってこと、気づいてくださいね。
左翼が女の権利意識・被害者意識を煽るため作り出した、20年前までなかった“セクハラ”や“DV”、こんな言葉使ってるだけで「ダッサー」、「カッコ悪ー」って感覚にならなければなりません。
ましてやアバズレのくせ、そんなんで大騒ぎしてるようならサイテー!! 地獄逝き決定です。
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(続き)◆『幽霊滝の伝説』 バチ当たり女の話 ~ ドラマ『日本の面影』より③
(始めから)◆ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の愛した日本 ~ ドラマ『日本の面影』より①
◆わが子をセメント詰めにして捨てた母親の事件について思うこと ~ 自分や子供たちが愚かな親になってしまわないために
◆男の子がいるなら五月人形と鯉のぼりを飾ろう!~日本の伝統文化を形にして意思表示を
◆キムチ臭いデザインのハイジやミッキー、ピーターパンに北斗の拳
◆日本の童謡の世界は比類ない最高のもの ~ それと子供には神話絵本も!
◆女の子には“赤い靴” ~ 親不孝娘を描いたアンデルセン童話のダイナミズム
◆ヘナチョコ男とパッパラパー女はいらない ~ 命とは尊く儚いもの
◆女性ならお琴、男性なら尺八がいい! ~ 和楽を身近に楽しみませんか?
この記事に対するコメント
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ブラボーです!
和己 | 2011/04/17 9:39 PM
昔は私も幾つも怪談を憶えておいて、修学旅行などで皆に聞かせてやりました。
coffee | 2011/04/17 11:10 PM
こんばんは。
このドラマ、本当に素敵ですね…。
すごくドキドキしながら、見入ってしまいました。
古い日本の絵本、昔話を調べてたくなりました。
子供の頃、夏に肝試ししたこと、夜に光る提灯、みんなといる時は怖くないのに、1人で居ると怖かった事、街頭がぼんやり光る夜道が怖かった事等、今ではすっかり忘れそうになっていた感覚を思い出しました。
学校には無い様な絵本を、お寺で見たり、住職さんに時々聞かせて戴くお話も思い出しました。
泥棒が盗んだ小さな仏像を背負って歩くと、信じられないほど重くなり恐ろしくなって、元のお寺に戻したというお話だったような…。
他には自分だけ地獄から助かろうとして、下に来る人を蹴落として助けの糸が切れてしまう、蜘蛛の糸など。
子供ながらに、悪い事は神様や仏様が見ている、しちゃ駄目なんだと、怯えつつ聞いてました。
ひよこ | 2011/04/17 11:14 PM
悪いことすると、すぐにバチが当たっていた昔話。日本の昔の親は、そういう迷信的なことも、子供たちに真剣、大マジメに話していたはず。
今の日本では天罰という言葉を使うだけでも、マスコミが騒ぎだしますから、揚げ足とりばかりでとってもイヤな社会になったなと思います。
頭の中がお花畑、物欲的なだけで、仏像が重くなる話のような本当に必要なイマジネーションやハートが貧困になってしまいました。
サファイア | 2011/04/18 2:46 PM
サファイア様のおかげで、私自身も忘れていた昔話を思い出す事が出来ました。( もう
ほんとに記憶に埋もれているのです )このお話も、その飴を私も食べたいなあと子供心に思ったものでした。私の子供は最近11歳になりましたけど、今からでも探してみます。天罰発言には今の日本人の病巣、それも利用し扇動しようとするメディアの気味悪さが浮き彫りになったと思います。サファイア様のブログには、いつも感謝しています。
狛子 | 2011/04/19 3:41 PM
【調査】 なんと日本の若い女性の7割が「ギャル」化。泣ける恋愛の歌が好き、つけまつげ愛用、イベントや祭り好き…電通ギャルラボ調べ
http://gogono.net/archives/51923529.html
こんなの電通の日本人サゲ、7割って大げさ!と言い切れないのが悲しいです。。。
私は子供いませんが、最近こちらのブログの影響もあって、公園やスーパー等で今の子供ってどんなだろと不審がられない程度に観察しています。
最近流行っているファッションなのかミニスカートにレッグウォーマー?、ませた格好の女子小学生多いです!
中学、高校とその調子で育てば立派なビッチ完成。
男性の草食化、オタク化も問題ですが、全員は無理でも彼らは中国嫁日記じゃないですが海外から優しい御嫁さんを貰う事が出来ます。
生意気なビッチは嫁にも行けない、全員がバリバリ働く事も無理でしょう。
日本人男性を追い詰めた結果、自分達があぶれるんですね。
マリメッコ | 2011/12/05 3:04 PM
「家政婦のミタ」、あんな気持ち悪い家族もないと思いますが、私の回りでは小学生も見ているようです。
うちは見せていませんが、子供の友達が「承知しました。」とミタの真似をしていました。
内容より、人間ばなれしているミタのキャラクターが面白いのでしょう。
子供はなんでもすぐ真似しますから、気付いている方はなおさら注意して欲しいと思いますね。
viola | 2011/12/06 12:24 PM
昔話の繋がりで、今年11月にスタジオジブリが「かぐや姫の物語」という映画を公開するようです。原作は竹取物語です。
私はついにジブリも日本の昔話に手を出してきた!と思いましたが、はてさて中身はどうなのでしょうか。
公式サイト↓
http://kaguyahime-monogatari.jp/
テレビドラマの繋がりでは、今は「半沢直樹」が高視聴率ドラマですが、恥ずかしながら私も見ています。というのは主人が原作となった小説の作者が好きでいくつか読んでおり、そのため主人と共に見ているのですが、基本的には男の仕事の世界での話なのですが、テレビドラマではちょくちょくフェミニストの臭いがありました。
私は「倍返しだ」という決め台詞も復讐心がありすぎて好きではありません。ドラマとしては倍返しでも面白いですけれどね。
このテレビドラマを見ていても、他のテレビのニュースを見ても、そしてインターネット上のニュースを見ても、最近はサファイアさんの言っていることが身に染みてきているのを感じます。ぞっとするくらいです。だんだん分かるようになってきました。
先週、ネットのニュースで犬に「さん」付けしているものを2件も見ました。それより前には、皇室関連ニュースで皇族の方に「さま(様)」を付けていないものがあって、もう嫌悪感で一杯になりました。インターネットももう相当汚染されているように感じます。
ですのでテレビと同様、インターネットもある程度距離を置いていかないといけないなと思っています。
葉っぱ | 2013/09/18 9:34 AM