日本の面影

Glimpses of Japan
失われる日本人の精神性に、将来を憂う  リンクフリー

『素顔同盟』の世界が現実化した、新型コロナ マスク強制社会の到来
~ 少数派 抵抗団体となってしまった、素顔同盟

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(2020.10.1)
素顔同盟  すやまたけし(1951-2011。1987年「火星の砂時計」より)

その朝も目を覚ますと仮面をつけ,鏡に向かった。にせものの笑顔がそこにある。人工的すぎる,口もとだけでしか笑っていない。その他の部分は,目もほおも無表情ですらある。そしてなによりも,その無個性な笑顔はみんなと同じなのだ。人と同じであることは幸福なのだとみんなは言うが,ぼくはそれに息苦しさを感じている。

鏡の中のぼくの顔は笑っている。みんなと同じ,昨日のぼくと同じ,そして明日と同じ笑顔なのだろう。しかし,仮面の下のぼくは泣いている。ぼくはぼくでありたい。ぼくはいろんな表情をもちたいと,さけんでいる。鏡の中の仮面はそれを隠している。

学校へ向かうぼくはみんなと同じ笑顔をしている。黙々と人波が過ぎていく。彼らは仮面の下で,どんな顔をしているのだろう。ぼくのように,疑問や怒りを感じることはないのだろうか。

授業中もそのことばかり考えていた。先生は社会を教えていた。

「……つまり,市民が仮面をつけだしたことによって,人と人との摩擦はすっかりなくなり,平穏な毎日を送れるようになった……。」

先生は教壇の上で仮面に笑顔を浮かべ,熱弁をふるっている。確かに,怒った顔で授業をするより,このほうがいいのかもしれない。だが,いつも同じ笑顔の先生にもの足りなさを感じるのも事実だ。

「……この便利さを,一度手にしてからは,元に戻るわけにはいかなくなった。やがて,この仮面は法令化され,制度として確立されるようになった……。」

ぼくは隣の友人の顔を見た。必死にノートをとっている彼の顔も笑顔だった。それと同じ笑顔が四十個(ぼくの笑顔も含めて)先生に向けられているのを,先生が同じ笑顔で受け止めている。どうもこっけいに思えるのだが,隣の友人は奇妙に思うことはないらしく,静かにノートに鉛筆を走らせている。

「……きみたちも現在,義務として仮面を着用しているわけだが,不便を感じたことがあっただろうか。考えてもみなさい。もし,きみたちが仮面をはずし,喜怒哀楽をそのまま表したりしたら……。この世は大混乱に陥るだろう。人は憎しみ合い,ののしり合い,争いが絶えなくなるだろう。いつもニコニコ,平和な世界,笑顔を絶やさず,明るい社会。仮面はわたしたちに真の平和と自由を与えてくれたのだ……。」

ぼくは友人にきいてみた。

「先生の今の話,おかしいと思わない?」

「なぜ? 笑顔のおかげで,ぼくたちはけんかをしないですんでいるんだろ。」

彼は笑顔で答えた。その仮面は実ににこやかに見えた。しかし,本当に仮面の下でもそう思っているのだろうか。ぼくだけが変な考えにとりつかれているのだろうか。

「……仮面をはずすという反社会的な行為が,人々に不安と恐れを与えるのは当然だ。そのような者を排除して,健全な社会を保とうとするのは……。」

「しかし,みんなの仮面の下に隠しているのが本当のぼくたちの姿じゃないのかな。」

「おい,そこ。さっきから,うるさいぞ。静かに!」と先生は笑顔でぼくに言った。

ぼくはしょんぼりしながら,その日,一人で帰った。しかし,素顔とは関係なく,その時の仮面はいつもの笑顔のままだった。だから,だれもぼくの心の内を読むことはできなかっただろう。この仮面はある意味で便利かもしれないが,ぼくにはひどく味気ないものに感じられた。寂しい時は寂しい顔を,悲しい時は悲しい顔をしたかった。

やがて,ぼくは街の東側を流れる川の公園のところまでやってきた。川の向こう側は自然保護区の森になっていた。秋になり,森は赤や黄の色彩にあふれていた。こちら側は川岸がコンクリートで固められ,公園になっている。川沿いのイチョウの木は等間隔に並んでいて,黄金色の落ち葉が歩道をうずめていた。

ぼくはぼんやりと対岸の森林地帯を眺めた。そして振り返ると,高層ビルのぼくの街があった。この橋のない川を隔てて,あまりにも自然と人工物が対立しているのに,改めて驚いた。自然保護区は荒らされてはならない聖域だった。

イチョウの木の陰に女の子がいた。ぼくと同じぐらいの年齢だろう。街から隠れるようにして,向こう岸を見ていた。ぼくは気づかれないように何本か離れたイチョウの木のそばで彼女を見守った。彼女の顔はみんなと同じ笑顔だった。ところが,彼女は次に,両手で仮面を覆うと,そっとそれをはずしたのだ。ぼくは思わず息を止めた。事の重大さに胸をどきどきさせながら周りを見回してみたが,だれもいなかった。

彼女は素顔になると,遠くの森をもう一度見つめ直した。彼女の素顔は寂しそうで,悲しみさえたたえていた。そして,美しかった。

ぼくは彼女のその行為が違法であることがわかっていながら,不思議ととがめる気持ちにもならなかったし,警察に通報しようとも思わなかった。彼女はぼくと同じ側にいる人間にちがいなかった。初めて同類に会えたのだ。

その夜,ぼくはなかなか眠れなかった。なぜ,あの時,声をかけなかったのかと悔やんだ。ぼくは,仮面をはずした彼女と一緒にいるところを,だれかに見られるのを恐れたのだ。ぼくは自分の身が大事だったのだ。結局,勇気がなかったのだ。せっかく自分と同じ側にいる人間と出会えたのに,その機会を自分で逃がしてしまったのだ。

夢の中に彼女が現れた。笑顔の仮面をはずすと,悲しい素顔が現れた。彼女はぼくを,遠くの方を見つめるようなまなざしで見た。ぼくに失望し,軽蔑しているようにも見えた。

次の日,ぼくは再び公園に行ってみた。しかし,その場所に彼女はいなかった。

ぼくはどうしてもあきらめきれなかった。学校はいつものとおりだったし,仮面に疑問をもつ者はいなかった。みんな,統一された変化のない笑いを浮かべていた。

その後も東の公園に行くのがぼくの習慣になっていた。しかし,彼女に会うことはできなかった。もしかしたら,彼女は仮面をはずしているのを見つけられ,どこかに隔離されているのかもしれなかった。

数週間が流れ,ぼくはいつものように公園の川岸にたたずみ,対岸の森を眺めていた。

秋は確実に深くなっていた。そのころ,学校でうわさされていることがあった。素顔同盟という一団があり,彼らは仮面をはずし,社会や警察から逃れて,この川の上流の対岸の森の中で素顔で暮らしているということだった。

川の水は冷たそうにゆっくりと流れていた。真っ赤に色づいたモミジの一群れが過ぎていった。その流れを見ていたぼくはふと妙なものを見つけた。

仮面だった。笑顔の仮面が川に浮いているのだった。その顔は彼女の顔に似ていた。ぼくは木の枝を折り,その仮面を拾い上げた。それはまちがいなく彼女のだった。彼女はその川の上流で,仮面を捨てたのだ。

ぼくはこの機会を逃がしたら二度と彼女と会えないだろうと思った。ぼくはためらいもなく,その川を上流に向かって歩きだした。

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この記事に対するコメント

  • なんだが世界中がグローバリストの姦計によって苦しめられる世の中になってしまいましたね。アメリカトランプ大統領がコロナに感染しているという情報が入りましたが陽性をいまだに感染者扱いしているようです。感染者とされる人々に対しても冷遇もひどい。日本國民は
    1億3000万人いるが現状の出生率が低いと一億を割ることとなる。20世紀のアメリカ、ユダ金総力戦の時代は
    お終い。組織や孤独な大衆社会は制度疲労を起こしており権力者自身が堕落している。令和の時代は個人の心のの時代になって欲しいところではありますが、にしても日本人はやはり同調圧力が強すぎるところも確かにありますね。所謂ロスチャイルドやロックフェラー財団、ビルゲイツ、マークザッカーバーグなどの国際金融資本、陰謀論的にはイルミナティと呼ばれる人々も色々と錯綜しておりスウェーデン方式を称賛したり英国やオーストラリアではマスクしないと逮捕という支那や北鮮並みの抑圧ぶりです。 
    アニメの攻殻機動隊やジョージオーウェルの『1984』の様な世界になりそうです。人類家畜化計画、ムーンショット計画や民営化する國家、移民受け入れなど確実に國體は破壊されつつある。
    最も今懸念されることは大橋先生はじめ抵抗者が権力層に取り込まれることですね。奴らはおそらく手段は選ばない。仮面により人との会話やオンラインで共に学ぶ事遊ぶ事も不可能になりこれでは通信教育です。
    電車を見ていても皆んなマスクをしながらスマホをいじくり回す大人ばかりになってしまいました。
    1人古典を読んで時折、というかほとんどマスクを外している私は完全に異端者ですね(笑)
    私自身日本人、日本という国は世界一潜在能力がある國家、民族かなと考えており基礎的な知識や学力もそうですが、尚武の精神もあります。天災も多いですが、それ以上に人にも恵まれている。ドイツやイタリア、アメリカやタンザニアと比較してキリスト教イスラム教の様な規範倫理道徳が神道にない為、メディアの影響や情報を鵜呑みにしやすい傾向に晒されている。

  • 長文のアップありがとうございます。この小説、もう一度読みたいと思っていました。高校の国語の教科書に載っていて、コロナが嘘でマスク社会がヤバいと気づいた時から、この小説をチラホラ思い出していました。

    小説家、画家、音楽家、映画監督など、アーティストは普通の人にはない、未来を予知する能力があるのだと、実感いたしました。

    こんな未来にならないよう、奮闘いたします。

  • 「同性愛者が守られると足立区が滅ぶ」議会での発言に波紋…渦中の足立区議を直撃
    https://www.google.co.jp/amp/s/www.fnn.jp/articles/amp/91932

    こちらの足立区議、真っ当なことを言っているプラス発言を訂正しないという強い信念、意志が感じられます。とても応援したくなる政治家です。この方が謝罪したとしたら相当圧力が加わったと見做して間違いないでしょう。
    コメンテーターもくだらないコメントで(そもそも白石区議はそんなこと言ってないではないか?と疑問が湧くようなコメントの仕方)読んでいてイライラしますね。
    発言に対して圧力がかけられ、謝罪をせねばならない国は既に自由主義国家ではありません。

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